建物の省エネルギー化、ひいては地球環境の保護が社会全体の課題となる現代。その鍵を握る「窓」の専門家集団として、独自の地位を築くのが山下硝子建材株式会社である。同社はガラス・サッシの販売施工という本業に加え、金融業界出身の代表が率いる補助金コンサルティングをもう一つの柱に据える。それは単なるコスト削減提案ではない。顧客の資産を守り、人の命を救うという強い使命感に貫かれている。保険と建材、二つの知見を融合させ、業界の常識を塗り替える。3代目代表取締役、山下隆之氏の経営哲学と展望に迫る。
保険会社から家業へ 父からの教え
ーー貴社に入社されるまでの経緯を教えてください。
山下隆之:
家業である弊社を継ぐつもりでしたが、父から「違う業界に行け」という教えがあり、最初は別の業界を経験することにしました。祖父の代は電車のガラスだけを扱っていましたが、事業が単一だったために仕事がなくなりかけた経験がありました。その危機を、父がサッシ事業を始めて乗り越えた経緯があり、「ガラス一本では危険だ」という考えが父には強くあったのです。そこで、全く異なる視点を養うために東京海上火災保険に入社し、30歳を前に家業に戻りました。
「合わせ技一本」の強み 建材とコンサルで市場を拓く
ーー貴社に入社されてから、どんなことに取り組まれましたか。
山下隆之:
父の「金融や保険の知識を活かせ」という方針で、まずは補助金のコンサルティングから着手しました。当初はクーラーやLEDといった省エネ設備が中心でしたが、東日本大震災を機に潮目が変わります。「窓の断熱化こそが真の省エネだ」という認識が国全体で広まったのです。そして、クーラーなどと窓の断熱化を組み合わせた「合わせ技一本」で補助金を取るスタイルへ移行したのです。この転換が、本業である窓やサッシの販売に直結するようになりました。
補助金を活用すれば、お客様にはより良い品を実質的に安く納品でき、これにより、本業のガラス販売との間に明確な相乗効果が生まれました。こうしてガラス販売に本格的に携われるようになり、ようやく父にも評価されたと感じています。
ーー貴社の現在の事業内容と、その強みについてお聞かせください。
山下隆之:
事業の柱は大きく二つあります。一つは祖父の代から続く「建材事業」。もう一つが先程の、私の経験を活かした「補助金コンサルティング」ですこの二つの事業は密接に連携しています。お客様が断熱化を行う際に、補助金活用という付加価値をセットで提案できるのが最大の強みです。
建材事業ではガラスとサッシの両方を扱えるため、お客様のあらゆる要望にワンストップで応えられます。この事業は、単なるリフォームに留まりません。窓の断熱化は、地球温暖化の抑制に貢献します。それに加え、冬場のヒートショックによる高齢者の死亡事故を防ぐことにも直結するのです。その点において私たちは「人の命、地球の命を守る」という大きな使命を背負っていると考えています。
さらに、補助金の知識に加えて、私が保険会社に勤めていた経験から火災保険の活用もご提案できます。例えば、台風被害の修繕に保険を適用するなど、お客様の大切な資産を守るお手伝いも重要な役割を担っています。
ーー貴社の特徴を教えてください。
山下隆之:
住宅向けエコポイント(※1)のような申請を、事務員も含めた全従業員が対応可能です。一方、ビルや病院といった大規模案件は、専門知識を持つ5名の特殊部隊が担当します。国の募集要項は何百ページにも及びますが、保険会社時代に培った読解力で要点をA4用紙1枚にまとめます。これを活用することでお客様へ分かりやすく説明できるのです。他社には真似のできないこのノウハウが評価され、銀行や保険会社から案件をご紹介いただくことも多いです。
また、弊社はガラス業者でありながら、省エネ建築の専門家である国の資格で、ZEB(※2)化実現に向けた相談窓口を有し、業務支援を行う「ZEBプランナー」に、認定されています。設備と窓、両方の知識があったからこそ、私たちの「合わせ技」の専門性を国に認めていただいた証だと考えています。
(※1)住宅向けエコポイント:省エネ性能の高い住宅の新築やリフォームに対して、商品や追加工事と交換できるポイントを付与する制度
(※2)ZEB:「Net Zero Energy Building」の略。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと
経営の軸は社会貢献 稲盛氏の哲学と未来への投資

ーー経営について、影響を受けた出来事はありますか。
山下隆之:
稲盛さんの「売上を伸ばし、人を増やし、雇用を生むことこそが世のため人のためになる」という言葉に衝撃を受けました。それまでは安定経営を志向していましたが、事業の成長と社会貢献が直結すると気づかされたのです。
この教えを受け、現在は採用に最も力を入れています。昨年は7名をキャリア採用し、今後はさらに倍の採用を目指します。私自身が説明会に登壇し、会社の思いを直接伝えることで、この考えに共感してくれる仲間を集めています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
山下隆之:
次世代の太陽電池である「ペロブスカイト」を組み込んだ発電ガラスや、スイッチ一つで透明度を変えられる「デジタルブラインド」などを共同開発しています。こうした新しい技術を積極的に取り入れ、窓の可能性をさらに広げていきたいと考えています。
そして、将来的には100億、1000億という売上規模を目指しながら、それに伴って人員を増やし、新たな拠点も展開していきたいです。この事業拡大を通じて社会に貢献し続けることが、今後の大きな展望です。
編集後記
金融知識を武器に補助金や保険を駆使し、顧客の負担を最小限に抑えながら、最適な断熱化を実現する。このようなコンサルティング手法を支えているのが、祖父の代から築き上げてきた信頼と実績、そして『人の命、地球の命を守る』という熱い使命感だ。伝統と革新。二つの車輪で業界を前進させる山下氏の挑戦は、これからも多くの人の未来を明るく照らしていくに違いない。

山下隆之/1976年大阪市天王寺区生まれ。大阪府立高津高等学校、神戸大学経済学部卒業。2000年東京海上火災保険株式会社入社後、8年の勤務を経て、2007年山下硝子建材株式会社へ入社。2012年に同社代表取締役に就任。建築資材の販売と脱炭素省エネ補助金の活用支援という二刀流で活動している。